プラトン著『パイドン』 魂の不死について5 (合成物と非合成物)

ソクラテス(プラトン著)

合成物と非合成物

「合成物」とは、生成と分解を繰り返し、恒常性・永続性が乏しく、自分の姿をすぐ変容させる種々雑多ものであり、「非合成物」とは、つねに不変的な在り方をして、自分の姿を一向に変えず同じ在り方を保つ単一・単純なものであると定義すると

「合成物」として、生成と分解を絶え間なく繰り返し行っている複雑なもの(例えば、身の回りの身近なものでいうと、様々な養分やエネルギーによって生成され、消化液や分解者によって分解される食べ物、この他にも数えきれないほどたくさんある同じ姿を保たないもの)があり
「非合成物」として、恒常不変のもの、つまりプラトンが考えるイデア(形相・実相・単一のもの)があり、思惟によってとらえるものがある。

よって、より簡潔に2者を分けるとすれば、一方(合成物)見えるもの(視覚という感覚でとらえる、つまり肉体でとらえるもの)他方(非合成物)見えないもの(感覚ではとらえることのできず、思惟によってとらえるつまり魂によってとらえるもの)であるとし、

合成物に似た性質のものとして、目に見えるし触ることもできる、生まれる(生成される)あるいは死ぬ(分解される)という過程があるということに関して恒常性が乏しいし、その他の容姿の変容も激しいという点も踏まえて「肉体」があり、

非合成物に似た性質もの(イデア)として、目に見えず触ることも出来ないため、つねに変化が加えられず恒常的・永続的だと考えられる「魂」がある

以上の帰結から導き出されるのは、「肉体」はそれ自身と性質の似たもの(変容性の激しい盲目さ)に自分を導き、「魂」もそれ自身の性質と似たもの(常に自己同一の在り方を保つ真実)へと自分を導く

そのため、真の哲学者ならば、「肉体」が提供する様々な誘惑からはどんなにつらくても距離を取り、一時の感情に動かされず常に永続的な(真実の)利益を求め耐え忍ばなければならないということ、

そしてつねに「魂」に気づかい、魂の性質に似たもの、つまりあらゆる不変的なもの・イデア(善そのもの、正義そのもの、美そのものなど)に目を向けなければならないということです。

魂が自分自身だけで考察する時には、魂は、かなたの世界へと、すなわち、純粋で、永遠で、不死で、同じように有るものの方へと、赴くのである。そして、魂はそのようなものと親族なのだから、魂が純粋に自分自身だけになり、また、なりうる場合には、常にそのようなものと関わり、さまようことを止め、かの永遠的なものと関わりながら、いつも恒常的な同一の有り方を保つのである。
なぜなら、魂はそういうものに触れるからである。そして、魂のこの状態こそが知恵(フロネーシス)と呼ばれるのではないか

プラトン著 岩田靖夫訳『パイドン』 (岩波文庫、1998年2月16日第1刷発行・2004年1月15日第7刷発行)

魂は肉体の調和により生成するのか

ここで、シミアスがソクラテスに疑問を投げかけます。

弦楽器を例に取り上げ、

竪琴物体的であるため肉体的な性質持つものであり、他方、調和音(竪琴が奏でる音)非物体的であり魂の性質を持つものだと考えるとすると、

今までの対話から成立した肉体よりも長命だ」という合理性から考えるならば、たとえ竪琴が壊れても(竪琴の弦が切れたり、竪琴そのものがバラバラになったり、腐敗したとしても)調和音は奏でられるはずである、という奇妙な結論が出てきてしまう

しかし、実際はといえば、竪琴に不具合が生じたら真っ先に消滅するのは調和音であり、音を奏でられなくなった竪琴はそれ以降も残存し続ける

これと同じように(竪琴に対する調和音のように)、肉体に対する諸要素の調和がならば、竪琴の不具合に対応した肉体の病気によって真っ先に消滅するのは、肉体ではなくなのではないか、

よって、「魂が肉体よりも長命である」というのは疑わしい、とシミアスは言います。

魂が肉体より長命だとしても、何度も肉体に入っていくうちに魂は衰え、いずれは消滅するのではないか

シミアスに続いて、ケべスもソクラテスへ疑問を投げかけます。

本当に、肉体よりも永続的で強靭な性質を持つにしても、人間衣服を着つぶしていき最後の衣服を着つぶす前には、その衣服を残して人間が先に滅びるように、

衣服の生成者であり、衣服よりも優れているといえる人間が、衣服よりも先に滅んでしまう場合、つまり最後の衣服からの分離(すなわち最後の肉体からのの分離)においては、が消滅しないとは言えないだろう、とケべスはいいます。


ここでいう人間の比喩であり、衣服肉体の比喩。

その2つの疑問(シミアスとケべスの疑問)に対して、ソクラテスは次のように答えます

「もし、それらの説が今までの議論の内容よりも的を得ていると思われるなら、一般的にと呼ばれるもの、つまり今の肉体からの魂の分離に対して、少しでも思慮のある人は恐れるだろう。」

この先に、それらの説を凌駕するような言説が出てこないなら。

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