プラトン著『パイドン』 魂の不死について3 (生成の循環的構造)

ソクラテス(プラトン著)

ここから本格的に「魂の不死について」の証明が行われていきます。

不死・不滅であることの必然性をソクラテスは色々な視点を駆使して弁明していきます。

哲学あるいはソクラテス・プラトン哲学のいいところは、全てにおいて「それ自体」だから「正しい」とは言わず、「~である」だから「正しい」のではないかという風に、

自分が「分からないこと」を決して「分かったように言わない」ところ、自分の価値以上のことを決して話さないところです。


以下に紹介する内容についても、抽象的ではありますが具体的に魂の不死についてソクラテスは述べており、相手に解釈を全て任せるということは無いと思います。

ここからの内容は僕は特に好きで、そして納得してしまう部分が良くも悪くも多い部分だと思います。

「死」は「人間全て(肉体と魂)の消滅なのではないか」についてのソクラテスの答え

ケべスは言います。

は存在し続ける永遠のものであると言うのなら、その説得と証明がもっと必要だ」と。

それについてのソクラテスによる証明を以下に紹介していきます。

生成の循環的構造

古くからの教説に「魂はこの世からあの世(ハデス)へ到り、しばらくそこに存在し、そして再びこの世へ到る。」というものがあるといいます。

もし、生きている者死んでいる者ハデスへ滞在する者)から再び生まれ変わるのだとしたら、は間違いなくあの世、死後の世界(ハデス)へ存在していることになり、もしが消滅するものであるなら再びこの世に生まれてくることはありえないだろうと、

よって、「生まれてくる者たちは死んだ者たちからのみ蘇る」と証明できたら、魂がハデスに存在する(魂は永遠だ)ということは証明されるだろうとソクラテスはいいます。

「一方のものは、それと反対の他方のものからしか生じ得ない」

例えば、「生成」と「消滅」「結合」と「分解」「明」と「暗」「熱」と「冷」「大」と「小」「眠り」と「目覚め」など、これらが対をなす関係だということについて、人間には共通認識があると思います。

これらの対をなすものはみんな「直線性を行き来する」ものであるとし、

分かりやすい例として、「明るさ」と「暗さ」を取り上げると、「暗くなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことであり、「明るくなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことであると、

さらに、それと同様に、「熱くなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことであり、「冷たくなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことである

大きくなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことであり、「小さくなる」というのはそれ以前よりも「」に近づくことであると、そしてそれぞれを「増大」あるいは「減少」と呼ぶと、

以上により、これらの対をなすものはそれぞれの反対物のどちらからでも生成し、その直線関係のどちらか一方へ向かっていく、

そして、「眠り」と「目覚め」を分かりやすく例にとると、「眠る」ことは目覚めている状態からしか起こらず(生成せず)、「目覚めること」は眠っている状態からしか起こり得ない(生成しない)、

よって、「生成されようとする対をなすものの一方」は「その他方のもの(反対物)」からしか生じ得ない、そして「その直線性を行き来する」といえます。


これらの法則性から、「」と「」について考えた時、つまり「」と対をなす「」について考えた時、人間は「いずれ死ぬ」ということは誰でも知っていますが、「再び生き返る」ということについては疑心暗鬼です。

しかし、均衡性を保つならば、「対をなすものは、直線関係を行き来する」という自然あるいはこの世の性質にならって、「」から「」へ、そして「」から「」へ行き来すると考えるのが理にかなっているのではないかと、

そしてその過程が本当に生じるなら、は存在し、「」から「」へ向かう間には、死後の世界(ハデス)が存在していなければならないとソクラテスはいいます。


そして、もしあらゆる対をなすものが直線性を行き来しないのならば、「この世はその一方のものにすでに到着し終えている」、「すべて同じ状態のまま存在している」だろうといい、

例えば、「」が「」へ一方的に向かうならば、この世は真っ暗だろうし、「」から「」へ一方的に向かうならば全ては凍りついていだろう

結合」から「分離」へ一方的に向かうならば、この世のものは全て単体で存在しているだろうし、「目覚め」から「眠り」へ一方的に向かうならば人は永眠しているだろうと、


よって、このような反対物への直線性の行き来が証明されたならば、死んだあと再び生まれ変わる、つまり「魂は永遠であり、違う物質へと魂が移転し生まれ変わる」というのは必然なのではないのか、とソクラテスはいいます。

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